写実表現を得意としていた洋画家・宮本三郎(1905-1974)。生前より定評のあったその描写力は、ともすれば技巧的ともとられかねないものかもしれません。一方で、宮本の作品を眺めるとき、平坦な背景や画面構成のあり方にも目が留まります。宮本の技術を際立たせ、さらに作品としての魅力とバランスを与えていたのは、この、フラットで装飾的な画面構成だったのではないでしょうか―本展では、そうした問いから出発して、「装飾性」をキーワードに、初期から晩年までの宮本三郎の画業を追います。
また、生涯のうち二度の渡欧を実現し、さらに西欧の美術に多くを学んでいた宮本ですが、それは同時に、自身が「日本の洋画家」であることの意味と意義を追求することを意味していました。日本美術の特色の一つともいえる装飾性は、たとえば江戸時代の浮世絵がクロード・モネやフィンセント・ファン・ゴッホに驚きをもって迎え入れられたように、海外の画家たちにも深く影響を与えています。それが、宮本の作品世界にある種のアイデンティティとオリジナリティを与える要素であったともいえることを、数多くの作品が物語っています。
生涯を通じて多彩な表現に挑み続けた宮本三郎。その作品世界に通底する魅力を、「装飾性の展開」という視点から探ります。