福島県河沼郡会津坂下町〔ばんげまち〕出身の版画家斎藤清〔さいとうきよし〕(1907-1997)は1936(昭和11)年、安井曾太郎〔やすいそうたろう〕の木版画に触発されて、その制作を始めました。1930年代は、くしくも日本の版画が海外への進出を試み始めた時期に当たります。
1944(昭和19年、斎藤は恩地孝四郎〔おんちこうしろう〕が主宰する一木会に所属し、抽象表現への傾向を強めるなか、1951(昭和26)年、第1回サンパウロ・ビエンナーレで《凝視(花)》が在サンパウロ日本人賞を受賞。駒井哲郎〔こまいてつろう〕と共に戦後日本人による初めての国際展受賞を果たします。以後、日本を代表する作家のひとりとして活躍を続けます。
一方、川上澄生〔かわかみすみお〕(1895-1972)は、1921(大正10)年から本格的に木版画を制作し、「どの書物にも書いてない素人のやり方」で、レンパツによるぼかしやニス掛け、艶紙、羅紗紙、箔による摺りなど、常識にとらわれない自由な心をもって生涯にわたり制作を続けました。
木版画は、版の限られた条件のなかで、画面の描線、色面などが生み出すマチエール(絵肌)に魅力があります。2人は世代こそ異なるものの、共に永瀬義郎〔ながせよしろう〕の『版画を作る人へ』から示唆を受け、版に対して真摯に向き合い続けました。本展では、斎藤清と川上澄生のそれぞれの版表現のいろどりをご紹介するものです。