この度、タカ・イシイギャラリーは、石田尚志個展「絵と窓の間」を開催致します。タカ・イシイギャラリーでの5年ぶり3回目の個展となる本展では、作家としての出発点であった16 mmフィルム、そしてタブローとビデオによる最新作を通じ、複合的な視点によるイメージの探究をおこないます。
今回石田は、長期間にわたり一枚のタブローへの描画を続け、その行為がやがて室内空間全体へと波及していく様を、圧倒的な密度のドローイング・アニメーションとして記録しました。そしてその編集作業から、無意識的な描画行為に隠されていた構造を新たに見出し、再構築し、絵と窓との間に多層的な光の溢れる空間を出現させます。映像の本質と絵画と時間の関係を問うため、これまでも編集作業を通し時間の不可逆性や反復を表現してきましたが、今回はさらに、フィルムとデジタルによるフリッカーやオーバーラップの光に挑みます。タブローに描かれる正方形は窓を模倣しつつ折重なり、拡張され、やがて光によって空間そのものを侵食していくのです。
作品テーマである「部屋」という環境と「窓」という要素は、石田のメインモチーフである「矩形」が実体化したものです。横浜美術館での個展に際し制作された「光の落ちる場所」(2015年)は、部屋の隅に浮いたカンヴァス上に、光と闇、そしてドローイングが矩形をも越えて展開する新たなビジョンを紡ぎだす試みとなりました。同年制作された「渦巻く光」ではガラス板と透過光により色と光の煌めく光景を作り出す一方、「正方形の窓」では、建築空間への描画行為により「正方形」というモチーフを押し出しつつ、実体化した矩形が宙に静止し続けるという、これまでの技法を拡張する表現に至っています。石田の仕事は常に、自由な描画行為の中で見出されていく予期せぬビジョンのドキュメンタリーであり、その特異な時の流れを観察する場として、一つの「部屋」が用意されているかのようです。
これらの作品に共通する密室論的空間表象について、石田はエドガー・アラン・ポーの『詩の原理』や『楕円の肖像』、アンドレー・タルコフスキーの映画「ストーカー」などから受けた強い影響について繰り返し言及します。また密室は、作家が10代後半に住んでいた沖縄の石油精製所(現石油備蓄基地)の記憶や、20代に働いていた東京の地下空間の記憶に繋がっています。かつて平安座(へんざ)島(じま)の石油精製所でみた、配管を熱するためだけの炎に包まれる巨大な空間へと入っていった経験は、その後「部屋」シリーズを生み出しました。そして、この密室のイメージは作家にとってより一層大きなテーマになっているといいます。
本展での新作には、こうした絶え間なくどこまでも続く、作家の描き続ける衝動と技術的探究が結実しています。「人のいない場所」において生成している現象や、エネルギーのイメージは、量子の振る舞いを観察する際のパラドックスのように、石田のとめどない描画行為へ広がっていくでしょう。