2018年夏、連日続く猛暑の最中に近藤亜樹からダンボールいっぱいの紙に描かれた作品が届きました。一枚一枚大切に包装された薄紙を開く度にこの半年間、近藤が個人として経験した様々な悲しみ、喜び、そして未来への希望が満ち溢れていました。
いかなる時もこの世界への愛情を見失わない近藤亜樹のアーティストたる所以、現実に立ち向かう不屈の勇気、さらなる前進への決意を讃える気持ちをこめて、シュウゴアーツは急遽今展を開催する運びとなりました。
描くことは生きることと言い切れるアーティストがどれほど存在するでしょうか。東日本大震災で多くの悲劇を目の当たりにした時、上京し孤独の中で作家としての在り方に悩み続けた時、大切なものを失った時、近藤は必ず絵筆を持って自分のやり方で立ち上がり続けてきました。その度に我々が予想だに出来ない新しい表現を身につけて。今まで近藤亜樹と出逢った方々、そして作品を通してこれから出逢う方々へこの展覧会をお届け出来ることをとても嬉しく思います。是非ご高覧下さい。
近藤亜樹は2018年2月小豆島にて入籍し新しい命を授かりました。その二週間後、夫の井上憂樹さんが南インドで急逝。3月には実家のある札幌に戻り出産に備えていましたが、8月下旬に元気な男児を出産しました。
私は待っている。
あの日の出来事を、どこからともなく突然降ってくるあの時。
私は確かにあそこにいた。匂いもしたし音も聞こえた。
味もした。感じて出会う、そして生まれた記憶。
私は待っている。
明日を想像して、あんなことや、こんなことを考えては、すぐに忘れて泡のように消えてはまた出てくる一瞬の明日を。
考えたってそのようにはならないのに、毎日現れる想像の中の未知の記憶。
私は待っている。
筆を握って待っている。 過去と未来の記憶すべてが、ここに降って生まれてくるのを。
積み重なっていく絵を見て
私は忘れていた記憶を思い出すように
本当は今日を待っていた。
記憶と生きる今をただ一瞬感じたくて。
過去と未来が背中合わせになった間の今が、一番儚く一番濃い。
過去も未来も私の今日。
掴んだ今を消えないように記憶する。
2018年8月 近藤亜樹