この度、当館では「こころの扉」と題して、二人の女性作家を紹介いたします。
清原啓子(1955-1987)は、将来の活躍を期待されながら31歳で夭折した銅板画家です。若い頃から久生十蘭や三島由紀夫等の文学に傾倒した清原は自ら「時代遅れ」と自嘲しながらも、神秘的、耽美的な物語性にこだわった濃密な世界を構築しました。作品は約10年間で30点(未完成を含む)を制作したのみでしたが、1点1点作家の尋常ならざる集中力が感じられ、特に後期作品に漂う独特の緊張感は他に例を見ない類のものです。
千葉県在住の倉本麻弓(1976-)は、幼少期から現実と「夢のまち」を往き来するようになり、その架空の場所で見る現実の延長とは異質の夢を日記に綴り、箱の中に再現している作家です。ボール紙(近年は黒いイラストボード)で作られた小箱の中には、夢で見た光景が精巧に再現されており、箱の側面に覗き穴が開いている作品については、そこから夢の中の視線が追体験できるようになっています。幼少期の倉本にとって「夢のまち」は、辛い現実から逃れるための場所でしたが、ある時からそのまちで遭遇する天災や事件等をとおして「死ぬな、生きろ」というメッセージを感じるようになり、現実世界を生きるための勇気を与えてくれる場所となっていたといいます。
本展では、作家が心の扉の内側にあるリアリティを独自の方法によって抽出したといえる表現をご紹介いたします。その稀有なる作品をお楽しみください。尚、本展では千葉県にゆかりがあり、戦後版画を代表する作家として浜口陽三(1909-2000)、深沢幸雄(1924-2017)、靉嘔(1931-)の作品をあわせて展示いたします。