土嶋敏男(1942- )は武蔵野美術大学を卒業後、郷里である三重県で高等学校の美術教諭となり、多くの後進を育てながら、自らも作家として弛むことなく制作に取り組んできました。
1960年代半ばから作品を発表し始めた土嶋は、コンセプチュアル・アートなど同時代の美術潮流に影響を受けつつも、豊かさを追求する代償として自然破壊がすすむ周囲の状況に危機感を覚え、1970年代からはシュルレアリスム的表現手法でそうした危機に警鐘を鳴らす作品を発表しはじめました。
その後、人間と物質との関わりを深く考察し、視覚化した「人と物」シリーズは、物質を通して人間の生態や思想に迫り、生きることの意味を鑑賞者それぞれが見出だすきっかけを与えてくれています。
油彩画と版画のどちらにも注力してきた土嶋にとって、いずれの表現手段も重要であったことは言うまでもありません。それらを並行して制作し続けたからこそ、互いの特性が生かされ、モノトーンの深みや色彩の独自性へとつながっているのでしょう。
今回は土嶋の初期から近作合計約40点を、前後期にわけご紹介いたします。