バッカーズ・ファンデーションとNPO法人アーツイニシアティヴトウキョウ[AIT/エイト]は、2007年より2017年までアーティスト・イン・レジデンスプログラムを協働で行い、欧米をはじめ中南米やアフリカ、東南アジアの国々から毎年2名、これまで10年間に渡り計15カ国から20名におよぶ気鋭のアーティストを招聘し、日本でのリサーチと作品制作の支援を行いました。 社会貢献活動を軸にプロジェクトを「バックアップする」ことを目的とする企業家やビジネスの専門家と、現代アートのさまざまなプログラムを手がけるNPOとの連携が特徴である本プログラムは、これまで都内のギャラリーより協力を得て、アーティストが滞在中に制作した新作を広く紹介する機会を創出してまいりました。その一部はバッカーズ・ファンデーションが所蔵しています。
12年目を迎える2018年、本プログラムを振り返る「東京 アラカルト -The Backers Foundation and AIT Residence Programme (The BAR) 10年の記憶」展では、小山登美夫ギャラリー、シュウゴアーツ、タカ・イシイギャラリーの複数の会場を結んで、日本に滞在した20名のアーティストによる作品を一同に展示します。
これまで本プログラムは、アーティストの視点と作品を通じて、彼らの国や地域が辿った複雑な歴史と今の姿を見つめてきました。2007年の第一回目に招聘したカディム・アリ(アフガニスタン)が生まれ育った中央アジアのハザラ族は、紛争により治安と生活状況の悪化を経験し、その最中に起きたバーミヤン渓谷の大仏破壊は今もアリの思考と創作に大きな影響を与えています。デュート・ハルドーノ(インドネシア)とシャギニ・ラトナウラン(インドネシア)は、2011年、東日本大震災後の余震が続く中、インドネシアでも経験した「揺れ」への記憶と共感から、特別な思いを抱えて本プログラムに参加しました。ゴル・スーダン(ケニア)とアルベルト・コジア(グアテマラ)は、自国で表現活動の抑制を経験しながら来日し、帰国後もたゆまずアーティスト活動を続けています。2016年に来日したターマクリシュナ・クリシュナプリヤ(スリランカ)は、民族間の争いが絶えなかった同国から初めて国外に出る機会を得て、高層ビルが立ち並ぶ東京を目にしています。
自国と日本において、さまざまな歴史の通過点を経験したアーティストらは、その背景をもとに、日本で社会や人々との関係性を体感しながら創作活動を行い、作品に昇華させました。それらをこの機会に再び展示することは、改めて彼らの国と地域の歴史文化を知る機会になると同時に、ひいては私たちが住む日本、または東京のこれまで10年を振り返り、その歴史化を試みるささやかな行為ともいえるでしょう。
本展では、3つのギャラリー空間を、東京のこれまでと今を見つめる「Urban Space=都市空間」、「Inhabitants=住まう人びと」、「Imaginative Memory=空想」とゆるやかにテーマを掲げて構成します。本プログラムが辿った10年の歩みの異なる時期に制作されたこの作品群は、時に共鳴して語り合い、私たちが暮らす東京の姿を考察する視点に繋がっていきます。
個々のアーティストが映し出す東京のアラカルト、そしてその集合体となる本展をじっくり味わって頂ければ幸いです。 また、本展の開催にあわせて、当時の展示風景や関係者から寄せられたコメントなどを収録した本プログラムの記録冊子「東京 アラカルト」を制作しました。展示と合わせて是非ご高覧ください。