当館では2015年に「小林清親―文明開化の光と影を見つめて」、2016年に「国芳イズム―歌川国芳とその系脈」と幕末・明治の浮世絵を展観してきました。本年はいよいよ、その最終兵器ともいえる浮世絵の鬼才、芳年の登場です。
月岡芳年(つきおかよしとし)(天保10年~明治25年・1839~92)は江戸の生まれ、12歳で武者絵の名手、歌川国芳に入門。幕末は武者絵を中心に、美人画、戯画など師の風に倣った作品を発表してきましたが、明治維新のきな臭い時代背景を通して、武者絵からリアルな戦闘画へと変化を見せます。このころの作品をして”血みどろ絵”、”無惨絵”の芳年としたイメージが後世まで強く持たれてきました。一時期、神経を病んでいたこともこうした印象に拍車をかけていたのかもしれません。しかし、それは一時のこと。”大蘇”と名乗り出してからは、新聞挿絵や西南戦争に取材した作品、歴史画・風俗画などで、人気浮世絵師への階段を一気に駆け上がります。晩年の10年間に描いた錦絵は芳年画を印象付ける名作・代表作揃いで、最期まで武者絵や物語絵の可能性にこだわり続けた、まさに”最後の浮世絵師”と呼ぶにふさわしい画業を展開しました。
この展覧会は、芳年の個人コレクションとしては質量とともに世界屈指といえる、西井正氣氏の収蔵品の中から選りすぐりの263点で、芳年の画業の全貌を紹介するもので、15年ぶり、まさに待望の公開となるものです。