岩手町立石神の丘美術館ではこのたび村上善男の版画作品に焦点をあてた展覧会を開催いたします。
1933年盛岡市に生まれた村上善男は、東北に活動の拠点を置き、土地の記憶や風土に強い関心を持ち制作を続ける美術家です。布や注射針を貼り付けた独特の作品で知られる村上ですが、印刷物や印刷することそれ自体への興味、関心から多くの版画作品も制作しています。作品には古文書や気象図、貨車に刷られた文字といった記号が表れ、感情を抑制し構成された理知的な画面からはその記号によってそこに生きる人間の営みや感情がにじみ出るかのようです。
1957(昭和32)年、村上は沼宮内中学校の教師として岩手町に赴任し、4年間を過ごしました。その間、地元の画家齋藤忠誠らと謀り、町内在住者を中心とする美術グループ「エコール・ド・エヌ」を創立しました。村上善男がこの地を離れた後もこのグループは活動を続け、北日本最大の美術集団として現在も活動をつづけています。
この展覧会は、岩手町での4年間を足がかりとして、内外に活動の場を広げていった美術家・村上善男の軌跡を初期から最近作までの版画によって紹介し、その内実を検証しようというものです。