牛腸茂雄は1946年に新潟に生まれ、桑沢デザイン研究所に学びました。グラフィックデザインを専攻していた牛腸は、彼が写真の授業で示した感性に注目した同校の講師、写真家・大辻清司の勧めで、写真専攻に転じます。彼が写真家として出発した60年代末、日常的な光景に淡々としたまなざしを向ける若い写真家たちが現れ、その動向が「コンポラという通称で呼ばれるようになりますが、牛腸はその代表的な一人と目されるようになります。 3歳の時に胸椎カリエスを患ったことで、牛腸は終生肉体的なハンディを負っていました。その制約の中で、『日々』(関口正夫との共著、1971)、『SELF AND OTHERS』(1977)、『見慣れた街の中で』(1981)の三冊の写真集や、インクブロットによる画集『扉をあけると』(1980)などを通じて、牛腸は日常世界における自己と他者の存在を見つめ続け、また精神世界の深みへと関心をひろげつつ、着実に仕事を展開していきます。しかし1983年、体調を悪化させ36歳の若さで世を去りました。 牛腸茂雄の死後すでに二十年という時間が経とうとしていますが、その作品はつねに静かな関心を集めてきました。それは自己と他者の存在への問いという、彼が写真を通じて取り組もうとしたテーマが、時代をこえた普遍性を持つからにほかなりません。今回の展覧会では、代表作となった写真集『SELF AND OTHERS』に収録された作品を中心に、その作品世界の深みと広がりをあらためて見つめ直したいと考えています。