漆工芸は、漆の樹液を精製して器物に塗り、装飾を施すものです。漆の樹は主にアジアで育つため、漆工芸はアジア独特の工芸として知られています。日本でも古くから漆工芸が発展し、祭器から日常品まで多くの作品が生み出されました。
漆は、他の塗料にはない艶やかな輝きが大きな魅力ですが、貝や金属の薄片を模様の形に切って貼る螺鈿や金貝など、様々な装飾が工夫されました。特に日本では、漆の上に金や銀の粉を蒔いて模様をあらわす蒔絵の技法が発展します。
工芸品には作者の署名がないことが多く、漆工芸に携わる人々もそのほとんどが、歴史に名を残していません。しかし、経済活動が盛んになる江戸時代に入ると、代表的な蒔絵師の名前が知られるようになります。その一人が江戸時代後期に活躍した原羊遊斎です。羊遊斎の大きな特色は、伝統的な作品に学ぶとともに、同時代の人気絵師であった酒井抱一の下絵を積極的に用い、流行に応える繊細華麗な作品の数々を生み出した点にあります。本展観では、館蔵品より奈良時代から江戸時代にいたるまでの漆工芸の多彩な展開を紹介するとともに、特別出陳の原羊遊斎作品よりその洗練された世界をお楽しみいただきます。