ヒノギャラリーでは2018年6月25日(月)より「神田喜和子 新作展」を開催いたします。
神田喜和子は1984年東京藝術大学美術学部絵画科を卒業し、86年同大学院を修了後、コンスタントに作品発表を続けておりました。しかし、生活環境の変化にともない2000年を境に公での展示は一時休止状態となります。それから十年以上が経った2012年、弊廊では初となった個展をもって再び発表の場に戻ってきました。展示の機会は長く逸していたものの、神田はその間自身の手を止めることなく、むしろ新たな地で黙々と制作に取り組んでいたことは、発表した作品が物語っていました。青を基調としたその画面は、深い森のような、海底のような、また仄明るい夜空のような、一点一点は絵具の層やマチエールの違いによって異なる表情をのぞかせ、色彩が持つ精神性と画面に現れた深遠な空間は観る者を内へと誘い一種の瞑想空間をもたらしたのでした。
ここ数年、神田は支持体づくりや絵具の調合といった素材そのものに対しても強い関心を寄せています。アトリエには微妙な調整のもと作り出された色彩サンプルがいたるところに置かれ、日頃の試行の成果と飽くなき探求がうかがえます。時間をかけてつくり出された良質で堅牢なキャンバスに、具体的なイメージは一切決めず、薄く溶いた油絵具を幅広の刷毛で気ままに重ねていく-- 制作は素材とのやりとりという極めて物質的なものを初発としながら、生成される画面の中に自然の一風景を見るのは、作家がおかれた創作環境に関係しているのかもしれません。神田のアトリエは周りが木々に囲まれた自然豊かな場所にあります。豪雪地域のため建物は高床式構造になっており、大きく取られた窓からは春には木立から地面までが緑一色に、また冬には一面の銀世界が望めるといいます。常に自然の変化を身近に感じるこうした環境での制作は、少なからず、いや多分に作品に影響していることは明らかで、観る者も神田の絵の中に自然の景色を重ねるのは至極当然のように感じます。素材との対話から始まり、主観を交えず制作を進めると、自ずと外から風に揺れる木の葉の音や虫の音、鳥のさえずりが聞こえてくるといいます。私たちの目に映るのは、そうした五感すべてで描き上げられたシンプルながらも壮麗な作家が掴んだ風景なのかもしれません。
ヒノギャラリーでは約3年ぶりの個展となります。継続してきた青のシリーズに加え、今回は新たな色彩に挑んだ作品も発表します。神田喜和子の最新作、是非ご高覧ください。