天平・平安の王朝文様は日本文様の原点ともいえる存在です。その中でも一際華やかな文様が花形に形作られた団花文〈だんかもん〉や円に囲まれた丸文〈まるもん〉などの花文でしょう。本展では、天平・平安の王朝文様の成立と近世にまで至る発展の様子を、団花文や丸文・有職文〈ゆうそくもん〉を中心にたどります。
天平時代は、花弁を重ね唐草を巡らせた豊麗な団花文の時代です。中国・唐の影響を強く受け、遠くシルクロードの形も伝えています。東大寺や正倉院伝来の団花文は、隋唐の団花文と共通性を持ち、その国際的な性格を良く示すものです。続く平安前期には、豊麗な構造が整理され菱形や四弁花形にまとめられた団花文が流行しました。密教美術の整然とした形と関連があるのでしょう。
平安後期、十世紀の末頃に唐風の団花文に代わって丸文が登場します。丸文は日本的な王朝文様の代表的な存在であり、円で囲むという形が、平明で温雅な日本的文様をうみ出したと言えましょう。丸文は仏画や仏像、仏教工芸を華やかに飾る一方、平安貴族の装束や調度に用いられ、その中で更に日本的洗練が加えられて、浮線綾〈ふせんりょう〉や八藤文〈やつふじもん〉、木瓜文〈もこうもん〉などの有職文へと発展します。有職文は王朝の伝統文様として、神宝や公家装束などに長く用いられました。
近世になると、多種類の丸文を自由に散らす「丸文散し」の形や、新たに雪輪〈ゆきわ〉などの丸い文様も登場します。丸文や雪輪文は小袖や能装束に散らされて、古代・中世とは異なる、近世ならではの動きと変化に富んだ華やかさを演出しました。
本展では、団花文や丸文・有職文を軸に文様の流れを見ながら、時代ごとの嗜好や文様の特徴を浮彫りにし、各時代の人々が文様を形作る多様な発想と工夫の様子を見ていきます。また中国・朝鮮などの作品もまじえながら、日本的造形の形成や変化に外来文化が与えた影響にも焦点を当てます。華やかな王朝文様の流れの中に、日本的な伝統の形成と変化の様子を明らかにできれば幸いです。