會津八一(1881~1956)は、歌人、書家、美術史家として活躍し、近代最後の文人とも称されます。文人とは、時代や国によって意味は変わりますが、詩書画に秀でた教養人のことを指します。そして文人の詩書画は、優れた精神、人格から生み出された三位一体の東洋的芸術と考えられています。
八一は、文人の生き方、芸術に憧れを抱いていましたが、過去の文人たちの作品をただ模倣するのではなく、自由な精神の中で自己の表現を模索していました。そのように制作された八一の詩書画は、各々が共鳴するような魅力を持ち合わせています。八一が制作で最も注意したことは、詩と書と画の調和で、それぞれの良さを損ねないように構図などの推敲を重ねました。
本展は、文人と詩書画をテーマに、新潟における文人の系譜を踏まえながら、八一の文人的芸術世界と、その魅力を紹介します。また、本年生誕125年を迎える世界的脳神経外科医で俳人の中田みづほ(1893~1975)など、八一と交流があった人物にも焦点を当てます。市民から文化の薫り高い存在として一目を置かれていた八一とその周囲の人々から、近代の文人の実像を浮かび上がらせます。さらに、日本絵手紙協会と小池邦夫名誉会長の協力のもと、現代の文人画ともいえる絵手紙とその源流にも着目し、現代に息づく詩書画の世界を紹介します。