竹喬美術館には小野家から寄贈された、竹喬愛蔵の作品が多数所蔵されています。その中には、師である竹内栖鳳をはじめ、親友土田麦遷、福田平八郎、祖父白神澹庵、息子小野春男、そして富岡鉄斎の作品があります。竹喬は富岡鉄斎の作品について、「セザンヌと共通する実在性を感じる」と、対談や講義の中でたびたび語っています。鉄斎絵画への憧れは、セザンヌの影響とともに《島二作》など、国展創立前後の作品のうねるような力強さを生み出し、晩年の竹喬を墨絵への挑戦に向かわせる一因といえます。
竹喬は鉄斎の作品を数点所蔵しており、小野家寄贈の書類《避邪》(竹喬美術館蔵)は、大正7年に竹喬が初めて手に入れた鉄斎作品です。また、《太湖競漁図》(竹喬美術館蔵)は、写真家土門拳に「水が光ってゐる」と賞賛された作品ですが、昭和31年に詐欺師に詐取されたエピソードのある、竹喬の思い入れの深い逸品です。
竹喬の愛蔵する鉄斎とともに、鉄斎が55歳の時の研学の様子がうかがえる《雪舟逸事巻》、鉄斎に私淑した洋画家正宗得三郎旧蔵の《山居静適図》(ともに岡山県立美術館蔵)などの名品や、竹喬が特に好んだ鉄斎80代の作品《柳江漁隠図》、《七福遊戯図》(ともにギャラリー鉄斎堂蔵)など約30点の魅力的な鉄斎作品から竹喬の憧れた芸術観を探ります。