自在な描線とともに墨の濃淡やぼかしを駆使する水墨画は、東洋絵画の重要な表現方法です。たんに対象の形を捉えるだけでなく、移ろう大気や光、人や動物が発する声や音、そこに宿る精神性といった見えないものまで表現できる点は水墨画ならではといえるでしょう。中国・唐代に成立した水墨画は、鎌倉時代の日本に伝わり、室町時代を代表する絵画となりました。
大和文華館の水墨画コレクションは、可翁(かおう)、愚谿(ぐけい)に代表される初期水墨画に始まり、周文(しゅうぶん)、文清(ぶんせい)、雪舟(せっしゅう)、雪村(せっそん)、狩野元信(かのうもとのぶ)、俵屋宗達(たわらやそうたつ)、伊藤若冲(いとうじゃくちゅう)、浦上玉堂(うらかみぎょくどう)など、水墨画壇を彩る画家たちの作品が所蔵されます。彼らは画中にその名前を残すことで、自分の作品であることを示し、画技を競いました。
本展覧会では所蔵する7件の雪村作品を同時に公開するとともに、館蔵水墨画の名品を展示します。日本絵画史においても重要な水墨画の流れをたどります。個々の作品から窺える画家の個性、その競演をお楽しみ下さい。