郷土作家シリーズ第7弾として、知られざる写真家・石田喜一郎(1886-1957・秋田県増田町出身)展を開催いたします。
石田喜一郎は商社勤務のため1919年にシドニーに渡り、そこで写真家鍵山一郎に出会って写真の手ほどきを受けました。実家に写真を送ろうと軽い気持ちでカメラを手にした石田でしたが、鍵山の影響で次第に芸術としての写真制作を志すようになったのです。そして短期間の内にシドニーで高い評価を獲得し、当地で最も先鋭的だったシドニーカメラサークルの一員に迎えられました。オーストラリアの代表的な写真雑誌に「突然のハリケーンさながらに東洋からやってきた写真界の隕石」と評されるほど、その活躍には眼を見張るものがあります。シドニーから出品された石田の作品は東京、ロンドンの展覧会で受賞を重ね、世界中の写真を集めた「フォトグラムズ・オブ・ザ・イヤー」誌に2年連続で作品が掲載されるなど、華々しい足跡を残しました。
しかしながら、石田が活躍したのは今日のように写真が芸術として認知される以前の時代であり、その作品が美術館で公開されることはこれまでありませんでした。近年、日本の近代写真史が見直されるに当たり、東京写真研究会、日本写真会での石田の活躍がようやく浮上してきたのです。この度の展示では、渋谷区立松濤美術館とオーストラリアのニューサウスウエールズ州立美術館の全面的なご協力をいただきました。すべてヴィンテージプリント(陶磁のオリジナルプリント)により、石田の作品約130点と、シドニーで交流した主要な写真家たちの作品約30点を関連資料とともに展覧し、写真家としての石田喜一郎を初めて秋田でご紹介いたします。
昨年、渋谷区立松濤美術館で好評を得、秋田での開催後シドニーへ巡回する本展が、写真史に忘れられていた重要な写真家に正当な評価を与え、世界的に活躍した郷土作家がいたことを多くの皆様に知っていただく機会となればと願っております。