木版画で制作している理由は選択肢の多さと、制作過程の面白さにあります。
下絵を反転させ版木に写し、彫刻刀で彫ることで筆では表現できない線となり、水性顔料を和紙の繊維の中に摺り込ませる。木版画は版木の種類、彫り方、和紙選び、そして摺り手の摺り具合の選択によって、それは、ただ一つの表現になります。
私にとって木版画制作は、自己の記憶との対話であり、記憶を形に残す手段だと考えています。作品は、人物の夢と現実が重なった世界観を表現し、水性木版画の技法を用い、和紙に幾度も記憶のイメージを摺り取ることで、触ることのできる形として「記憶」を残しています。受賞作「recollect Ⅱ」は水性木版画独特の木目と色彩、そして、感情表現を抑えた人物とが合わさり、作品を見た人がどこか懐かしさを感じてもらえたらと思い制作しました。
大切な記憶について考えた時、作品を通して、新しい階段へ進めないか。このことをこれからの制作において試みたいと思います。今回の思いがけない受賞は、これからの制作において大きな励みとなりました。誠にありがとうございました。