それまで文字をもたなかった日本列島の人々は、約2000年前の弥生時代中頃に外交の必要性から中国の文字―漢字を受け入れました。古墳時代中頃の5世紀になると、ヤマト王権の勢力拡大にともなって、文字は国内政治の道具として盛んに使われるようになります。そして、7・8世紀に律令に基づいた国の制度が整うに従い、戸籍など行政文書の作成や税の提出、仏教や祭祀などを通して、文字は人々の生活になくてはならないものになりました。その一方、文字そのものが権威を示したり呪力を持つものとしても扱われました。
この特別展では、国立歴史民俗博物館の創立20周年記念の企画をもとに、重要文化財の貨泉・「山辺郡印」をはじめ、銅鏡や石碑、全国各地の遺跡から出土する木簡・漆紙文書や墨書土器、そして東大寺写経所の帳簿や中央官庁の公文書からなる正倉院文書などをとおして、日本の古代社会と文字とのかかわりを描いていきます。また、石川県の加茂遺跡から出土したぼう示札(お触れ書き)を人々に伝える様子を実物大で再現したり、お経を書き写す写経生の生活のイラストなどで文字と人々とのかかわりをわかりやすく紹介します。
当館ではこの特別展に引き続いて、横浜市域を含む古代の南武蔵・相模地域の文字を中心とした企画展「古代を考えるIII 文字との出会い―南武蔵・相模の地域社会と文字―」を開催します。合わせてご観覧いただくと、この地域に対する関心と理解をより一層深めることができるものと思います。