シュウゴアーツは2018 年4月14日(土)より髙畠依子の新作個展「泉」を開催いたします。
髙畠依は2014 年に東京オペラシティアートギャラリーのプロジェクトスペースでの個展によってその独創的な仕事が知られ始めました。2016 年に博士号を取得した東京藝術大学大学院での三年間において、アニ・アルバース*の仕事をもっぱらの研究対象としつつ、他方では実制作において絵画そのものが織物であるかのような、絵の具を糸のように垂らして重ね、ときにはそれを生乾きのうちに吹き飛ばす、というユニークな絵画表現を獲得している点が、画面の緻密なエレガントさとでもいうべき作風とともに注目されました。今回の新作展では、これまでの到達点からさらに一歩踏み込んで、絵の具を糸のように垂らしつつも偶然性を積極的に取り入れた新たな試みが披露されます。
髙畠は今展覧会のタイトルを「泉」と命名しました。彼女の仕事場はいわゆる画家のアトリエとはどことなく異なり、絵画をあたかも結晶体あるいは生命体のように生成しようとするかのような理系・工学的雰囲気があり、それは絵画生成研究所とでも呼ぶべき新絵画創造の実験場 / ラボになっていると言ってもよいかもしれません。こここそが作品を生み出す「泉」のような場所と言えるでしょう。かつてテキスタイルの世界にも魅入られた美術少女が、他方では絵画の歴史に否応なく正面から向き合う受容の時期を経て、やがて自らの方法論を見出しながら今追い求めているテーマは、彼女の作品の一見手を触れがたい繊細さとは裏腹に、実はとても壮大にして野心的なものです。
ポロックのアクション・ペインティング、ルイスのステイン・ペインティング、白髪のフット・ペインティング、田中敦子の円を紡ぐペインティング、草間彌生の増殖するネット・ペインティング、単位の芸術としてのミニマリスム、あるいは彼女の師である小林正人の描きながらキャンバスを張るというペインティングなど、20 世紀後半にそれぞれに必然性をもって陸続と生み出された手法・構造によって切り拓かれてきた絵画表現の地平を前にして、21 世紀の画家髙畠依子もまた独自の絵画表現のスタイル確立に果敢に挑んでいます。
今回展示されるのは、髙畠の旨とする「作り、壊し、また作る」という弁証法的な作法をベースに、偶然性を積極的に取り入れた、しかしながら以前同様のエレガントさを備えた作品群です。偶然性の導入のための触媒として、風に続き、今回は水や重力の働きを用いるに至ったのは、髙畠ならではの実験・思索・試行の積み重ねの成果でもあります。
この展覧会は髙畠依子にとってシュウゴアーツにおける2016 年に続く二度目の個展となります。髙畠依子というフレッシュにして本格的な芸術家の誕生に注目して頂き、貴メディアにて取り上げて頂ければ幸いです。
シュウゴアーツ 佐谷周吾