岡本太郎は若い日に留学したパリで、画家としての方向を模索するかたわら、自分の行く道への裏づけを得たいという切実な思いから哲学や社会学に関心を
持ちます。そして人間の生き方の根源を探るべく、パリ大学で民族学・文化人類学を学びました。パリでは、画家だけでなく写真家たちとも親しく交流し、ブラッサイやマン・レイに写真の手ほどきをうけ、引き伸ばし機を譲り受けたり、戯れに展覧会にも出品しています。しかし、岡本が猛烈な勢いで写真を撮りはじめるのは、戦後、雑誌に寄稿した文章の挿図に、自分が見たものを伝える手段としてこのメディアを選んだ時からでした。
こどもたち、風土、祭りの熱狂、動物、石と木、坂道の多い街、屋根、境界。岡本がフィルムに写し取ったイメージは、取材した土地、旅先でとらえられたものです。見過ごしてしまうようなささいな瞬間の、しかし絶対的なイメージ。フィルムには、レンズを通してひたすらに見つめた、岡本太郎の眼の痕跡が残されています。旅の同行者である秘書・敏子は「一つ一つ、いったい、いつこんなものを見ていたんだろう、とびっくりさせられるし、そのシャープな、動かしようのない絶対感にも息を呑む。一緒に歩いていても、岡本太郎の眼が捉えていた世界を、私はまるで見ていないんだな、といつも思った。」と述べています
本展では、岡本がフィルムに切り取ったモチーフ、イメージを軸に、岡本太郎の眼が見つめ捉えたものを検証することで、絵画や彫刻にも通底する彼の関心・思考を探ります。
カメラのレンズが眼そのものになったような、岡本太郎の眼差しを追体験してみてください。