人物画は、花鳥画・山水画と並ぶ東洋の伝統的な画題です。実在の人物を描く肖像画や、当時の人々の様相を描いた風俗画はもちろんのこと、物語上の架空の人物や、人の姿で表される神仏を題材とした作品も、人物表現の一つとして見ることもできます。
本展観には、三十六歌仙の一人として憧憬された平安時代の女流歌人・小大君の姿を和歌と共に描く「小大君像」(重要文化財、鎌倉時代)や、位の高い武家の妻の肖像画と推察される「婦人像」(重要文化財、桃山時代)、遊女たち十七人を豪華に描く「婦女遊楽図屏風(松浦屏風)」(国宝、江戸時代前期)など、魅力的な人物の姿を表した館蔵の日本絵画が集結します。中でも「中村内蔵助像」(重要文化財、江戸時代中期)は、琳派の代表的な画家として著名な尾形光琳の描いた唯一の肖像画として貴重です。光琳の最大の後援者を題材としたこの作品には、内蔵助の堂々とした佇まいが描写されるだけでなく、張りのある曲線を組み合わせた求心的な構図に光琳特有の美意識が反映されています。
描かれる人物の立場や性格、描き手である画家の特色や画風、時代の流行などと関わりながら、多様な人物画が生み出されてきました。日本絵画の人物表現の豊かな展開をお楽しみください。 (担当 宮崎もも)