資生堂ギャラリーでは、2018年1月13日(土)から3月25日(日)まで、渡邊 耕一の個展「Moving Plants」を開催します。渡邊は、10年以上の歳月をかけ「イタドリ」という雑草の姿を写真に撮り続けています。「スカンポ」とも呼ばれるこの植物は、日本各地に生息し、古来より薬草あるいは食材としても知られています。しかし、約200年前に、当時長崎に滞在したシーボルトによって園芸用のアイテムとして日本からヨーロッパに持ち出されたことをきっかけに、その強い生命力から世界各地に広まり、今日ではその土地の生態系を変えてしまうほど繁殖していることはあまり知られていません。
渡邊は、北海道の風景を撮影する中で「イタドリ」に偶然に出会って以来、この雑草の生態のあり様を具にリサーチし、自身の眼で確かめる旅を続けています。古今東西の植物の文献に当たりながら、現地の植物学者とも連絡を取り合い、これまでイギリス、オランダ、ポーランド、アメリカ合衆国などの藪の中へと分け入ってきました。本展では、渡邊の「Moving Plants」シリーズから18点の写真作品、2点の映像作品を中心に展示します。渡邊がこのプロジェクトを通じて捉えた「イタドリ」の姿は、強い侵略性のある植物でありながらも、自然の有機的な美しさを湛えた底知れぬ生命力を感じさせます。
今回の展示では、大型カメラによる写真作品の他に、世界各地の「イタドリ」が生息する藪に分け入って撮影したドキュメントフィルムや渡邊がリサーチに用いた貴重な資料も展示します。本展は、渡邊が「イタドリ」を追うプロジェクトの全体像を初めて示すとともに、大きく引き伸ばされた「イタドリ」のプリント作品は、人の丈ほど成長した植物がもたらす迫力ある臨場感を展覧会場全体に響かせることでしょう。
資生堂の社名は、中国の古典『易経』の一節「至哉坤元 万物資生(大地の徳はなんとすばらしいのだろうか すべてのものはここから生まれる)」に由来しており、自然がもつ生命力を称えるものであります。近年は、この自然がもつ生命力に向けられた関心がグローバルに高まりを見せており、アートの表現にも人と自然との関わりや自然に対する感性を表明する作品が見受けられるようになりました。
日本からはじまって人を介して園芸用のアイテムとして世界に流通するようになり、植物自体の強い生命力によってダイナミックに世界中に広がった「イタドリ」は、あたかも今日の人とモノと情報が行き交うグローバル・ネットワークを予見するような、稀有な物語の主人公と言えましょう。渡邊が捉えた植物と人とが絡み合う時空を超えた軌跡を、ぜひご高覧下さい。