最初の個展の頃から、面を色で埋めるだけでは物足りないと感じていた。コラージュに適した紙片はもちろん、今は古物などにも目が行く。蒐集した物や廃物を精査し、価値のないあり過ぎる物は避け、極力属性を取り除くのが日課である。例えば塀の染みや水溜りに映る雲の形に触発され、記憶の海に沈んだ風景や忘れられない言葉などを連想し始めた時、既に制作の為のひそかな冒険が始まっている。その漠然とした気分に輪郭を与えるのが、一本の金属線であり錆びた釘なのだ。分量や組み合わせが成功し作品として昇華する事もある。色で構成した世界に、最小限の異質な要素をさりげなく置くと、まるで必然があるように思えてしまうのが不思議である。 寺田眞理子