「経験したときには、もう死んでいる。原爆とはそうしたものなのです。だけど、あなたがたは想像力をもっているのよ。」―丸木俊
2018年、開館45周年を迎えるベルナール・ビュフェ美術館は、銀行家・岡野喜一郎によって創設されました。岡野がビュフェの作品と出会ったのは、第二次世界大戦の荒廃が残る1953年。戦争によって深く傷ついた人々を虚飾なく描き出して戦後フランス具象美術の出発点となったビュフェの表現は、復員兵であった岡野の心に深く刻まれました。
丸木位里・俊は、原爆投下後の広島を見た経験をもとに1950年から《原爆の図》の共同制作をはじめました。洋画の俊が堅牢なデッサンで人物を描き、それを押し流すように位里が水墨を重ねていく、という激しいぶつかり合いの中で生みだされた作品は、日本画と洋画、前衛と伝統といった美術史の枠組みではとらえきれない力で、現在も私たちに強く訴えかけてきます。ビュフェは戦時の感情を自身の記憶と主観に基づいて描き、丸木夫妻は被爆者たちの証言に耳を傾け、一人ひとりの物語を《原爆の図》に表現しました。三者の作品は、戦争がもたらした痛み、絶望、人間性の喪失などを、想像力によって絵画に表したものです。彼らの作品が発表当時に共感と反感を呼び、また後の世代にとっても戦争の惨禍を追体験させるものであり続けるのは、三者の絵画が見る人の想像力をかきたて、心を揺さぶる力を持つからではないでしょうか。
本展は、1950年代にフランスと日本で戦争の記憶を描き、社会現象ともいえる反響を生み出したビュフェ、丸木位里・俊の交錯に注目します。本展が、絵画の持つ想像力を感じとり、共有する場となれば幸いです。