羊毛や絹、麻を用いて様々な絵柄や文様を奏でるタピスリー(綴織壁掛)。その歴史は古く、古代西アジアやコプト織を生み出したエジプトまで遡ります。西洋の綴織はササン朝ペルシャなど東方文化からも影響を受けながら、中世にはフランドル地方や北フランスで壁面を覆う防寒用家具・調度品として発達しました。バロック、ロココ時代に装飾性を帯びた華やかな芸術作品として独自の発展を遂げたタピスリーは、勧業博覧会が盛んに開催されていた明治時代の日本の染織文化にも大きな影響を与えています。
本展は「コプト織の世界」「キリムからペルシャ絨毯へ」「西洋の綴織芸術」「明治期の綴織芸術-制作の過程から-」の4つのセクションからその芸術の魅力をご紹介するものです。日本で紹介されることの少ない16~17世紀の西洋のタピスリーをはじめ、日本で展開した「美術染織」としての綴織、古代染織を代表するコプト織からキリムを起源として発展したペルシャ絨毯まで、「イメージを織る」という行為の魅力に迫ります。
糸を紡ぎ出し、色を染め、膨大な時間を費やし生み出されたイメージは、古今東西の人間の営みの大きな潮流を感じさせます。国境や時代を超えて現代に引き継がれた作品を通じて、本展覧会が人間にとって親密にして可能性に満ち
た綴織の芸術世界を多くの人々にお伝えする機会となることを願っています。