19世紀なかば、近代化の進むフランスにあって、都会の喧噪を離れパリ郊外のフォンテーヌブローの森の入口のバルビゾン村に移り住み、付近の自然の美しいたたずまいや農民の暮らしを描いたバルビゾン派。コロー、ミレー、ルソーらに代表されるこの一群の画家たちは、屋外での観察にもとづく自然主義的な視点を貫き、のちに誕生する印象派への道を開いた功績によって、近代絵画の先駆者として位置づけられます。 なかでも、ジャン=フランソワ・ミレー(1814-75)は、農民たちの日々の営みを真摯なまなざしで見つめ、ジャン=バティスト・カミーユ・コロー(1796-1875)は、自然の風景を豊かな詩情で謳いあげて、ともに後世の画家たちに深い影響を及ぼしました。また、ミレーを含む七人の傑出したバルビゾン派の画家たちは、天空に輝く七つの星「プレアデス(Pleiades)星団=昴(すばる)」に因んで「バルビゾンの七星」と呼ばれ、それぞれに個性的な境地を開いています。(「バルビゾンの巨星たち」という本展のタイトルは、この呼び名に由来するものです。)バルビゾン派の描いた深い郷愁を湛える穏やかな情景は、19世紀当時、都市化が進むなかで失われつつあった自然への憧憬を率直に映し出すものであり、現代に生きる私たちに、日々の生活の中で忘れかけている自然へのノスタルジーを呼び起こしてくれます。
本展では、ミレー22点、コロー18点を中心に、「バルビゾンの七星」と謳われたルソー、ディアズ、トロワイヨン、デュプレ、ドービニー、ジャック、写実主義の巨匠クールベなど、31作家による103点の名画を一堂にご紹介いたします。この珠玉の作品群は、姫路市在住の実業家、中村武夫氏がその半生をかけて収集されたもので、個人所蔵のバルビゾン派コレクションとしては、その作品数・内容の両面において国内最高の誉れ高いものです。中村氏は幼い頃ミレーの絵に深く感動して美術品蒐集の道を歩まれており、少年時代の夢を追い続けた一人のコレクターの結晶と呼ぶにふさわしい傑作群といえましょう。永年、「幻のコレクション」として、眼にふれる機会のほとんどなかったこれら秘蔵の名画の数々は、1999年に地元姫路市で初公開されて美術界の大きな注目を浴び、そしてこのたび九州では初めて展覧されるはこびとなりました。