荒木経惟(1940ー)は、1960年代半ばの活動の初期から現在まで、都市、人、花、空、静物といった被写体をどれも特別視することなく等しく日常のこととして撮影し、それらのもつ「生」の生々しさ、また「生」と切り離すことのできない「死」を捉えてきました。生と死の比重がそれぞれの写真によって異なって感じられるさまは、人間の生死の揺らぎや荒木個人の人生の反映ともとれ、 作品の魅力を増しています。
本展では、これまでに撮影された膨大な写真のなかから、腐食したフィルムをプリントする、写真に絵具を塗る、割れたレンズで撮影するなど、何らかの手が加わることによって生と死をより強く意識させたり、両者の境を撹乱させるような作品を中心に展示します。こうした試みは、荒木の時々の感情から生まれる写真への率直な欲求であり、そのような作品は、従来の枠にとらわれることなく新しいことに挑み、写真にも自身にも真摯に向き合う荒木の姿を改めて伝えてくれることでしょう。さらに、現在の荒木の生を示すものとして、本展のために制作された丸亀市出身の花人中川幸夫(1918-2012)へのオマージュとしての「花霊園」、友人の遺品であるカメラで撮影した「北乃空」などの新作も出品し、写真と一体となった荒木経惟をご紹介します。