茶道具につけられた「銘」という愛称をごぞんじでしょうか。太郎、満月、大津・・・と数々の茶道具には銘がつけられ、親しまれてきました。
品物に愛称を付け、同質同型の他の品と区別し愛玩する歴史は、古くから日本でおこなわれてきました。楽器の中でも特に名器に名前が与えられた例が平安時代の『枕草子』に出ており、これらは「名」、時代が下がると「号」とも呼ばれてきました。
室町、桃山時代には、お茶の世界でも特に価値の高かった茶壺に様々な愛称が与えられ、もてはやされました。千利休以後、17世紀になってこれらの愛称が「銘」と呼ばれるようになります。
「銘」の文字が使われるようになった由来はよく分かりませんが、銘茶、銘木、銘菓の単語があるように「上質なもの」の意味があり、特に他より抜きん出た物と捉えられたのかもしれません。
茶道具に銘がつけられた理由はいろいろですが、それぞれ歴史や言われ、イメージという付加価値を与える働きをしています。それは旧所有者や旧所有地の名。色や形からの連想。作品や製作にまつわる逸話などが主体となっています。
今回の展覧会では当館所蔵の茶入、茶碗、茶杓をはじめとする茶道具の内より「銘」を持つ作品を集めました。茶道具をそのものとして鑑賞するだけでなく、銘という言葉が持つ魔力も同時にお楽しみいただければ幸いです。