岡耕介(おか・こうすけ)は「何も考えずに」描くという。
ロックを流し、無心で筆を執る。だからどの作品にも岡自身が貫かれている。結果としてできあがる作品よりも、その過程である「描く」という行為自体を重んじてきたという岡の作品はひたすら純粋で、声高な主張や小難しい理論はみじんも内包していない。1948年に横浜で生まれた岡は、10歳の頃に絵描きになろうと決めた。その時を振出しとして、双六のようにサイコロの目が示すままに生き、描いてきたという。
美術大学への入学、中退、看板店、デザイン会社などのさまざまな職、スペイン滞在、結婚、茅ヶ崎への転居、神輿との出会いなど生活上のいろいろなマス目。途切れることなく続けてきた制作活動においては、個展、グループ展、茅ヶ崎美術家協会への出品と会員推挙というマス目。ときには天安門事件や東日本大震災の衝撃からの「休め」のマスもあった。
いわゆる中央画壇とはかかわることなく進み続けてきた岡耕介の絵描き人生双六の大きな一マスとなる本展では、30年の歳月をかけてこのたび完成をみた300号の大作「樹」をはじめとする油彩画約70点に加え、ガラス絵や水墨画などのほか、絵具のチューブをもちいて作られた人物像(立体作品)を含めた約90点の作品を展示する。
この展覧会が多くの方々にとって、岡耕介の創作世界にふれあう機会となることを願う。