タカ・イシイギャラリー フォトグラフィー/フィルムは、1月13日(土)から2月17日(土)まで、小平雅尋個展「在りて在るもの」を開催いたします。タカ・イシイギャラリーで3年ぶり、2度目の個展となる本展では、前作「他なるもの」以降に制作された作品群で編まれたシリーズ「在りて在るもの」より計13点を展示いたします。
気の向くままに撮り歩いていると、理由はわからないが眼が引き付けられることがある。違和感を覚えながらもカメラを構え、幾つかのダイアルを操作しながら心の的を絞ってゆく。何故私はそれを見たのだろうか。気が付けばすでにそれを見ていたし、今もまだ見ている。こんなとき大抵は「気が向いた」という言葉で済ませるかもしれないが、よくよく考えるとこれは恐ろしいことだ。気が向いたのは本当に私なのだろうか。そもそも私はその対象をどのように見始めたのだろう。眼が捉えてから物事に気付いている事実に動揺する。
私の意識が気付く前に、視野を見渡し事態を把握する<何か>がいる。意識にそれを見ろ、判断しろと促し続ける、もう一つの隠れた存在。
2017年9月 小平雅尋
小平は、人間と世界の根源的な関係性への関心から、直感的な撮影に基づく写真表現を通じて「偶然を超えた意味の繋がり」の記録と共有を試みてきました。繊細な操作を伴う暗室作業により、眼がひきつけられたものを写真のうちに具に分析し撮影の感覚を表現するという不断の活動の中で、小平は眼の導きとも言うべき直感的撮影の状態に「自分自身であることを自覚する意識と、頭の真ん中かちょっと後ろの方に感じるそれという二重の存在」としての人間の在り方の表れを認め、隠れしものであるそれとの接触を試みる自身の制作を「在りて在るもの」というタイトルの元に纏めました。
風景や自然現象など、絶対的な外部である外界に対し抱く畏れや恍惚の反応の集積であった前作に対し、本シリーズでは、特異な光景や瞬間への圧倒的な直面性による緊張感を作品の内に保ちながらも、作家の関心は世界に対峙している自身の意識を操縦せしめる「何か」への注視へと比重が移っています。しばしば歴史的・社会的出来事の場を撮影地とし、撮影対象は自然物やその現象のみならず人や社会・都市へも拡がりを見せ、熟視のための対象への更なる接近が見てとれます。社会や世界との連関の中に積極的に自らを投じることで研ぎ澄まされた作家の眼は、新たな感覚や物事の見方を写真に捉えることで、世界と人が如何様に結びついているのか、あるいは結びついていけるのかを提示していると言えます。