火、それは暮らしに欠かすことのできないものである一方、人命や生活の基盤全てを奪う危険なものです。充分な消防設備のない江戸時代では、火災への恐れは今よりずっと強いものでした。火伏(防火) の霊験あらたかな秋葉山(浜松市)は、人びとの心の拠り所として、江戸時代から現代にいたるまで、広く信仰を集めています。
江戸時代、庶民は参詣する仲間である「講」を結成し、参詣する人は途切れることがなかったと記録されています。また秋葉山は遠江を代表する名所でもありました。歌川広重・河鍋暁斎らが浮世絵に描き、歴史上高名な人物も数多くの紀行文や物語を著しています。一方、三河に現存する多数の秋葉山常夜灯は、秋葉信仰が暮らしの中に深く根付いていたことだけでなく、岡崎の石の産地としての特徴を示しています。明治以降は時代の推移にあわせて変容を遂げながらも、今なおその信仰の火を灯し続けています。
本展では東海地域に伝わる資料・美術品約百点を通して、三河の人々の心に息づく秋葉の信仰とその歴史を紐解いていきます。