熊本市現代美術館では、コレクションや九州に関わりのある作家や活動を紹介する小企画シリーズGⅢvol.118として「風を待たずに―村上慧、牛嶋均、坂口恭平の実践」を開催します。
村上慧は2014年より発泡スチロールで自作した家をせおって歩く《移住を生活する》を始めました。村上は、移動で訪れた場所にある民家をペンで描き、歩きながら感じたり考えたりしたことをブログに綴っています。家をせおって移動しているその姿は、まるで家が立ち上がり、歩き出したかのように見えますが、それは土地という固定されたシステムから家を切り離し、私たちが生きる現場へ歩いて近づこうとする行為といえるかもしれません。
福岡県久留米市で家業の遊具製造業を継ぎながら制作を行う牛嶋均は、廃棄された遊具を回収し、鉄として完全にリサイクルされる前に、新たな造形の可能性を提示してみせます。遊具の変わらないシンプルな原型の組み合わせは、牛嶋自身による作品の制作/探求であると同時に、鑑賞者にも知的な創造を誘発します。抽象化された遊具は、周囲の景色とともに、私たちの社会で常に揺れ動く目に見えない境界や関係性も自ずと生み出します。
当館コレクションからは、2009年の個展GⅢvol.67「坂口恭平熊本0円ハウス」で公開制作された《坂口自邸》を展示します。台車と自転車が取り付けられている本作は、いつでもどこへでも自力で移動が可能なモバイルハウスです。開放的なガラス窓で構成された内部空間には、植物(人工植物)が自生しています。水平にも垂直にも自由自在な《坂口自邸》は、変化し続ける家主とともにある家の姿が表れているようです。
本展では、私たちが生きる状況について思考し続けている3人の作家の実践を紹介します。(池澤茉莉)