-yuragi-展に寄せて
最近の小曽根環の作品展開のスピードは、瞠目するものがある。2015年5月には墨染や紅茶染めの綿麻を張ったパネルに胡粉で木目を描き、ライブペイントで画廊の玄関のガラスに木目を描いたと思ったら、翌年の東京の画廊では、アクリル板に描いた木目を通して安藤建築のコンクリートや、沖縄の海を見るshakkei (借景)シリーズがはじまった。今年は春からロサンゼルスとN.Y.にも出品、そして9月開始の神戸開港150周年記念「港都KOBE芸術祭」には、木目を描いた130×130cmのアクリル板を7枚、台風にも耐えるよう鉄のフレームを組んで神戸港の一角(北公園)に設置、神戸港や神戸の街並みまで作品に取り込んだ壮大なスケールのインスタレーションを完成させた。これは遊覧船からも公園からも鑑賞でき、上部に仕込んだLEDによって、とりわけ夕刻には六甲の山並みを背景にして美しい。さらにもう一会場、神戸空港展望台デッキ(4階)北側にも、手すり下に5枚のアクリル板に、こちらは木目ではなく彩色樹脂により身体性のある横のストロークで画面を構成、「yuragi」と称して、彼女が選んだ音楽とともに神戸の山なみ、街景を見るという作品も制作している。これもまた実に評判がいい。
この度の「白」での個展については、1階の漆黒の空間を使うとは聞いていたところであるが動画も使うという。聞けば「木目」を描いた大きなアクリル板を真っ黒な展示室に天井から吊るし、プロジェクターで沖縄の海を動画で投影するのだそうだ。白い「木目」に海のエメラルドグリーンやブルーの色が照射され、さざ波の動きと「木目」のゆらぎを呼応させるのだという。考えれば「木目」のもつゆらぎのリズムをテーマに制作を続けて38年になる彼女のこと、インスタレーションについてもこれまで数かずの展覧会を成功させてきたことを思うと、しっかりした成算があるのだろう。ギャラリー「白」の黒い空間に、はたしてどのような作品が浮かび上がるのか、みなさんとともに私も期待して待っていたい。
越智裕二郎 西宮市大谷記念美術館 館長