作者のことば
私が果てしなく長い夜の旅に発ってから、幾歳月が経ったであろうか? 失われた時の墓碑であるこれらの作品群は、現実を、眼で見る世界で無し、想像の中に見ようとした歩みの道標でもあった。
昼の光の中に身を置く者に、白日がさだかに認められないのに比べ、闇に射しこむ一条の光は、何にも増して美しく、明るく見える事を人は識るべきだと思う。
今から二千年の昔、キリストは人類の為に、総ての罪を負って死んだと思われているが、彼は其の後、救い甲斐の無い人間に愛想を盡かし、十字架の釘から手足を引抜き、天なる神の元に帰った事を知る人は少ない。それ以来吾々は自分の血で、涙で、自らの罪を贖わねばならなくなったのだ。
画家は此の事を、誰よりも先づ、身を以て体得しなければならない立場にあるのではないだろうか?
愛しもせず、信じてもいない、又無関心ではあるが、たゞ、大切なもの、此の宿命を負った人間が生きている事に深く感動することが出来るひとに、私は、今後も語りかけて行きたいと思っている。
大島哲以(『日本の幻想絵画の明星 大島哲以展』1973年より)