糸を織ることから生まれる、独特で多様な質感と色彩は、古くから実用的な織物の域で用いられるに留まらず、視覚に訴える表現手段としても洗練を重ねてきました。
西洋におけるタピスリーの制作がその代表的なものですが、1960年代の後半頃からは絵画的な表現を超えて、織りによる立体的な造形表現を試みる作家も多数現われ、「ソフトスカルプチュア」や「ファイバーワーク」といった言葉も生まれました。織りによる表現は、現在もなお新たな素材や技法を取り込み、時代を反映しながら豊かに展開し続けています。
日本においても伝統的なものと独自のものを、素材と技法において連動させ、駆使し、織りの造形表現を刷新している作家が少なからずいます。その優れた作家の芸術を特集して展観するシリーズ、『現代の織』を今年度から開始します。
スタートは、日本におけるタピスリー表現の第一人者である潮隆雄(1938~)と、日本のファイバーワークの先駆的な作家である久保田繁雄(1947~)の制作を取り上げて紹介します。