早春に、寒気を突いて、愛らしく咲く梅花ほど嬉しいものはありません。桜の季節がめぐってくると、日本人はその華やぎと散り際に、ひときわ深い共感と情愛をいだいてきました。万葉の時代より、移り変わる花の季節をいつくしんで数々の和歌が詠まれ、やがて茶道具の銘にも取り入れられるようになりました。今春の展覧会は、梅の開花から、自然が花に染まりゆく季節、満開の桜、新芽の頃、薫風さわやかな初風炉の季節まで、春の移ろいをテーマに「初花月の茶会」「染色月の茶会」「桜下花見の茶会」「花残月の茶会」「初風炉」と題し、それぞれの季節に因んだ茶道具を取り合わせました。また、吉野龍田屏風の内、満開の桜を描いた吉野図を展示し、提重や重箱、伊万里や志野の皿などを置き合わせて、花見の宴を演出いたします。春の一日、茶会においでいただいた気分でお楽しみいただければ幸いです。