糸をひらく/いとから啓(ひら)く-深萱真穂/フリーライタ-
京都精華大学で織やファイバーアートに縁を結んだ作家17名が「いとから」と題するグループ展を催す。糸から、ということなのだろうけれど、綴りをひらがなで「いと」と開いたところが面白い。
その種の美術工芸を修めたひとを除くと、たとえば糸を紡ぐ経験などは、今の日本で稀かもしれない。糸は店で買う商品となり、用途はたいがい繕い物。糸から繋がる可能性の緒を手繰り寄せるのは容易でない。
いわゆる「魏志倭人伝」を紐解けば3世紀、倭人が中国の皇帝に倭錦や緋青縑(こうせいけん)と呼ばれる緻密な織物を贈ったとある。その前提として機織り導入の以前から、この列島では編布(あんぎん)がつくられ、漁網が発達し、縄文時代すでに糸からものを生み続けた伝統があった。
繊維を績(う)み、熟練した手わざで編みや織りを施す。受け継がれた営みは市場経済のなかで細りがちだが、糸を「いと」に開いて見つめ直す作家たちの感性が、多様な技法を駆使した取り組みを経て新時代の表現を啓いてくれるよう期待したい。
大江芹香|大村 恵|加國悠理|亀井 遥|坂元陽美|城土井里奈|鈴木彩子|高安由維|堤 加奈恵|冨田みの里|野中里穂|濱田菜々|古川すみれ|松本麻耶|村田咲喜子|山下茜里
賛助出品 大住由季 監修 上野真知子