ヒノギャラリーでは2017年9月30日(土)より「是枝開 新作展」を開催いたします。
1980年代、亜鉛メッキ板による立体作品を発表し注目を集めた是枝開は、90年代になるとその創作の軸を立体から平面へと移行します。とはいえ当時の作品は、まず前述の亜鉛メッキ板による立体を制作し、それを撮影、その写真を元に絵画へと転化していったもので、これにより生み出された一連の作品は〈光の肌〉と名付けられました。この頃から作家の興味は物理的に存在するものではなく、それを知覚させる光や色彩、またそれらが引き起こす現象へと向けられ、ある種不可視でとらえどころのない光景をキャンヴァスに再現しようというその試みは、今回の新作からもうかがうことができます。
本展で発表する絵画シリーズのモチーフになったのは植物です。今回是枝がとった制作プロセスは、まず植物園に行き植物や園内の様子を動画で撮影、その中から瞬間を切り取り静止画としてキャンヴァスへ転写し、そこから絵具を重ねていくという方法でした。動画ゆえに、切り取られた場面はあるところでは明瞭に、またあるところでは模糊とし、対象が植物でありながら作家の視点はそこにとどまらず、揺らぐ光や移ろう色彩へと向けられているのがわかります。それらをピクセルレベルでとらえ描き出すことで、キャンヴァスに新たな景色を出現させています。作家は過去のとあるインタヴューで「ものを視るという行為そのものがモチーフである」と述べています。是枝の絵画にはいつも対象となる具体物がありますが、作家にとってそれらはもはや作品の確固たるモチーフである必要はなく、むしろそこで起こっている事象を自身の目や感覚で認識することが要となり、だからこそあらゆる角度から観取することを試みます。絵筆を執るまでの細分化されたプロセスもまた、視ることが是枝の制作においていかに重要かを示す一つの現れといえます。その行為は、知覚の曖昧さを指摘しながらもその無限性を信じるもので、そうして創出した画面を、今度は鑑賞者があらゆる方向から感受することを作家は期待しているのかもしれません。
是枝にとってヒノギャラリーでの個展は10年ぶりとなります。新たなシリーズで展開する絵画作品をどうぞご高覧ください。