文字組版は、書体、サイズ、字間、行間、組幅、組体裁によって形作られています。本展のタイトル「組版造形」とは、紙面に文字組版を配置・構成した空間を含む造形のことを指しています。*デザインをはじめてまもなく、右も左もわからぬままにタイポグラフィの世界に足を踏み入れました。ロゴタイプ、レタリング、活字版 刷術、書体とその歴史、ブックデザインなど、タイポグラフィの範疇だとされるどれもが魅力的でしたが、そのなかでもっとも惹かれたのが文字組版でした。活字自体の美しさはもとより、文字活字が組まれた状態のテクスチャーとフォルム、その構成と構造、そうした組版が描く紙の上の風景は、僕にとってどんな造形作品よりも魅力的に映りました。*タイポグラフィにおける造形は、見やすさや読みやすさを支援した結果であり、組版の造形そのものに言語伝達の本質があるわけではありません。けれども書体の形をはじめとする組版の造形には、時代の感性と技術、歴史の記憶、身体が感知する圧倒的な量の非言語情報が存在しています。テキストは、これら非言語情報によって「形」を与えられ、視覚言語としての機能を果たすことになるのです。*読者はテキストを読み自らの内部でイマジネーションを働かせ、場面や情景を脳裏に思い描くことでしょう。言語伝達にとって理想の「絵姿」とは、このように読者それぞれのなかに描かれるものであって、そこに組版の形が介在する余地はないのかもしれません。だが、しかし、それでも、と、組版の形にどうしようもなくこだわる自分がいます。ページをめくる瞬間、テキストを読む前の一瞬、そのほんの僅かな時間に組版は読者と出会います。その時、テキストは期待と予感に満ちたものになっているか否か-組版造形の意義は、その一点に尽きるのではないかと思うのです。