倉敷市出身の小田宏子(1940-2015)は、高校時代に倉敷素描絵画研究所で洋画家・河原修平に師事し、岡山大学教育学部特設美術科に進学、1958年から河原主宰の燈仄会や東光会などで作品発表を重ねました。1964年結婚を機に名古屋へ移住して以降も岡山県内での活動を継続し、その間、学友ら女性作家数名とともに「グループ・ミロ」を結成、この活動はのちに結成される瀬戸内圏の女性作家集団「アート・SUN」へと繋がっていきます。一方、1974年に名古屋市内のキリスト教会で洗礼を受けたことは、その後の制作思想に影響を及ぼしました。1980年倉敷に帰郷すると、無数の連続するパターンが登場する抽象表現を開始します。次第に平面的絵画表現から、カンヴァスを素材として扱った、ヒダ状のレリーフを画面に生み出す試みや、カンヴァスの重なりによる奥行きを意識するなど、三次元方向への拡がりを見せました。これらの制作を続けながら、1996年に「国際丹南アートフェスティバル」主宰の八田豊と出会い刺激を受けた小田は翌年から和紙を用いた制作を始め,その後雁皮紙(がんぴし)で綿を包んだふくよかなオブジェによるインスタレーションへと展開し、唯一無比な作風を確立しました。
本展では、初期の油彩画から晩年の雁皮紙によるオブジェ作品までを展示し、実直な精神で数々の試行を続けながら真摯に表現と対峙し続けた小田宏子の生涯を辿ります。