独自のモチーフやプロセスで絵画を制作する伊藤彩。鮮やかな色彩の海に広がる、モチーフのユーモラスさと毒気が、見る者を中毒的な魅力に引き込みます。2年ぶりの個展となる本展では、1年間滞在したアイルランド・ダブリンで制作した絵画を中心に、新たに描き上げた新作数点を加えて展示します。
ジオラマ空間に様々なモチーフを取り入れ、頭の中のイメージをそのまま描き出すという試みに加えて、野菜などの生ものをそのままモチーフとして扱うようになるなど、その画面には変化が起きています。アイルランドで野菜農家を手伝いながら暮らしたことで野菜に愛着が湧いてきたように、もともとみかんに関わる仕事を生業としている家に生まれた彼女にとって、その日々は生活と制作が密に繋がるきっかけとなったのでしょう。日々の生活を大切にするアイルランドで、「何をテーマに作るか」より「作品とどのように向き合うか」に重きを置き始めた伊藤は、モチーフやドローイング一つ一つに向き合い、一度描いては寝かせ、時間をかけた画面との対話を始めました。「Sleeping Stone」というタイトルにも感じられるその対話は、作家自身の内面を掘り下げ、新たな領域を開き、時として新鮮な出会いをもたらしてくれるのでしょう。深淵に臨む伊藤の新たな世界を、この機会にぜひご高覧ください。