美濃加茂市民ミュージアムでは開館以来「芸術と自然」をテーマに現代美術作家によるレジデンスプログラムを開催してきました。今年度は自分自身が生きているということの思索を身体で表現するアーティスト・河村るみ(1980年~)を紹介します。 河村るみは、世界と「私」との関係性の中で、自身の立ち位置が変化することで、世界も変化することを自らの行為と共に映像記録していきます。行為は歩く、立つ、座る、寝る、見つめる、描くといった日常の動作を繰り返すというシンプルなものです。毎日同じ場所で同じ行動を繰り返すパフォーマンスと、その状況を撮影した映像を同じ場所に映写し、インスタレーションとして発表します。同じことを繰り返しても全く同じになることはなく、折り重なる像は人の存在の揺らぎを提起し、生きているということの曖昧さを露わにします。 展覧会名の「When I am laid in earth」とは、パーセル作曲のオペラ「ディドとエネアス」で、ディドが自ら命を絶つ前に歌うアリアの題名に由来します。作家は今、生と死のはざまについて考えを巡らせています。2017年1月に開催した名古屋市美術館での展覧会では、実母を看取った経験を絵画、映像、パフォーマンスによって表現しました。今回の美濃加茂での滞在制作では、死の直前に見る風景を思い、森の中でパフォーマンスを行い、展覧会では映像による空間構成を試みます。 積み重ねていく時間を身体で視覚化する河村るみの表現は、時が過ぎ去り存在が見えなくなったとしても、その場にいた人や起こった出来事のすべてが消えてしまうわけではないという、ほのかな希望を伝えてくれます。生きていくこと、死ぬこと、すべてを受け容れる強さと柔らかさを宿した空間を体感していただければ幸いです。