「白い海の最果て」
赤子の産着、花嫁の衣、亡骸の白装束。
過去から現在へと受け継がれてきた営みの中で、人が神仏と向き合う時、また生と死を迎える時に身に纏う色の白。
松井浩一氏が生み出した「波」は、木の板20枚を白く塗り上げ、それら一枚ずつ違う表情の波が一刀一刀彫り描かれて、その断面からは金色の生木が現れ、まるで太陽の光を受け乱反射する波のように、漆黒の中、キラキラと輝いている。
波の断片を繋ぎ合わせて一つの海となった作品は、白白と光るタ刻の凪いだ海のようであり、長く静かに対峙すれば、足下まで打ち寄せる波を眺め、浜辺で佇んでいるような錯覚を覚え始める。
白い海の最果ては、輪廻から転生した者だけが辿り着く彼岸があるのかもしれない。
一刀三礼で彫り上げた仏師にも似た祈りが、松井浩一氏の「波」には込められている。涙の源を辿れば、深い深い海へと、私たちは繋がっているのだろう。久しぶりに潮風を吸いたくなった。実冬ーMifuyu (アートエッセイスト)