大正期、鏑木清方が出品を続けた官展では、会場芸術と呼ばれる大作が数多く展示されましたが、来場者の人気を集めた大画面の作品は、人々の肩越しに鑑賞しなければならないこともありました。清方は、こうした会場芸術や、床の間に飾って楽しむ芸術とは違い、「卓上芸術」という、手元で心ゆくまで細かな筆遣いや色使いを楽しむことのできる芸術 を提唱しました。
「卓上芸術」は、画帖や画巻、色紙、さらには挿絵などの印刷物までを含み、清方が理想とした、ひとつの芸術のあり方を示しています。代表的な作品である《註文帖》や《にごりえ》は、より多くの人々の手元で楽しまれるようにと、画譜として普及版が出版されました。
本展覧会では、画巻《夏の思い出》や《註文帖画譜》、彩り豊かな口絵などの卓上芸術の作品とともに、秋の情趣あふれる作品をご紹介します。