第二次世界大戦後のグラフィックデザインの歴史を語るうえで欠かすことのできない存在が、スイスのチューリッヒを拠点に活躍した「スイス派」と呼ばれるデザイナーたちです。ヨゼフ・ミューラー=ブロックマン、リヒャルト・パウル・ローゼ、マックス・ビルといったデザイナーたちが示したデザイン理論は、明快な色彩と形態を用いて理知的に分析された画面構成を特徴としており、その後の現代グラフィックデザインの基礎を築きました。
そのスイス派を代表する作家であるヨゼフ・ミューラー=ブロックマンと大阪芸術大学が深い交流をもっていたことは、あまり知られていません。大阪芸術大学の前身である浪速短期大学が創設されて間もない1960年代初め以降、ミューラー=ブロックマンは客員教授として特別講義や作品展示を幾度も行い、未来のデザインを担う学生たちに、スイス派の理論と実践を伝えていました。その後1980年代まで続く交流の中で、彼が選定した“造形を学ぶ学生たちにとって有意義な”構成的版画作品を継続的に購入することで形成されたのが、大阪芸術大学の所蔵する「ヨーロッパ構成主義コレクション」です。それは、戦後めざましい勢いでグラフィックデザインを向上させていった日本の学生たちへの期待と、教育的配慮が込められた贈り物でした。
本展では、コレクションの中から、画面構成の実験と検証の場ともいえる構成的版画作品約80点を紹介します。