公益財団法人常陽藝文センターでは郷土作家展シリーズ第249回として,「日々そして日々 塙冨士夫展」を開催いたします。
洋画家・塙冨士夫さんは、独学で油彩画の技法を習得し、昭和60年の初入選以来二紀展を主な発表の場としています。一貫してテーマは人物であり、初期の頃は写実的に婦人像などを描きました。やがて四角い絵画空間にモチーフや色をどのように配置するのか構成を研究するうちに作風が変化していきます。絵画は色面を強くすることで画面が平面的になり空間表現が難しくなります。塙さんはモチーフを立体的に描にとよりも油彩絵具の美しい色での表現を優先したいと考え、色面の強度を保ちつつ空間表現を模索します。結果、異なる視点で捉えたモチーフを同一画面に配置し、空間を曲げたり伸ばしたりして表現するようになり、その空間に合わせて人物もデフォルメされていきました。
平成14年頃から少女や子供たちを主題に描くようになった塙さんは、子供という気ままな存在にイメージを触発され自由な表現ができると感じたといいます。横に引き伸ばされた顔で黙って大人達を見つめ小さな悪戯をたくらむかのような少女の表情や佇まい、背景に自由に描き込まれた落書きなどで、未成熟な子供の世界をユーモラスに表現しています。
現在、塙さんの主題は日常生活の些細な穏やかな場面です。室内のテーブルや椅子、食器や観葉植物など、ひとつひとつの物自体は画面にリアリティを持たせるために陰影をおさえつつも具象的に丹念に描き込みます。そして室内でのびやかに寛いだ様子の女性たちは、ある動きの途中で静止しているような捉え方で描かれています。このような人物の捉え方と前述した空間の描き方の効果があいまって、独特の浮遊感が生まれます。塙さんは画面の中にほんの少し不自然な部分をつくり込むことで、普通のことが当たり前ではないかもしれない可能性をごく控えめに提示し、物語性のある日常のゆるやかな空間を描き出しています。
今展の前期は、主に少女をモチーフにした作品を7点、後期は近年の二紀展出品した大作を中心に7点を展示いたします。
公益財団法人常陽藝文センター