ごあいさつ
このたび、南アルプス市立美術館では、ニューヨークを愛し、都市を描き続けた画家「木村利三郎追悼」展を開催いたします。
2014 (平成26)年5月に亡くなったこ、“リサ”の愛称で親しまれた木村利三郎は、ニューヨークを基点に活動しながら、都市の崩壊と再生あるいは宇宙をテーマに描き続けた、海を渡った戦後の日本を代表する美術家の一人です。代表作は、ニューヨーク近代美術館やブルックリン美術館をはじめとして、国内外の著名美術館にも所蔵されており、彼の表現に最も適った技法であるスクリーンプリントによって制作されてきました。
木村利三郎は、1924 (大正13)年に横須賀市で生まれたのち、東京空襲によって廃墟となった東京の都市風景を通じて強烈な戦争の記憶を心に刻印した後、1947 (昭和22)年には横浜師範学校(現 横浜国立大学)を、続く1954 (昭和29)年には法政大学哲学科をそれぞれ卒業し、法政大学では恩師でもあった哲学者の谷川徹三( 1895~1989)から海外で美術家人生を志す最初のきっかけと影響を受けたといわれています。
1957 (昭和32)年頃には創造美育運動でも知られる美術評論家で、後に初代町田市立国際版画美術館長としても深く版画芸術に関わった、久保貞次郎(1909~1996)との知遇を得たことで創造美育運動にも参加しています。また、2014 (平成26)年に当館で企画展が開催され、生涯の親友でもあった、在メキシコ画家の竹田鎭三郎(1935~) ともこの頃に出逢い、若き日には占領下の沖縄を一緒に取材旅行しています。
また、久保との出逢いを通じて、ほかにも瑛九(1911~1960)や曖嘔(1931~)、池田満寿夫(1934~1997) といった戦後日本を代表する画家・版画家とも親しく交流してきました。
このように、様々な縁によって実現した本展覧会は、木村利三郎の約70点余に及ぶ版画や水彩画の代表作によって構成されています。そして、それぞれの作品からは近年経験した9.11や3.11あるいはミサイルの脅威までも髣髴とさせる、現代社会のもつ様々な都市の構造や崩壊、あるいは宇宙や未来感といったキーワードによって、彼が深く切り込もうとした様々なメッセージを読み解くことができるのではないでしようか?
結びに貴重な作品をご寄贈いただいた木村秀夫氏とご遺族をはじめ、木村作品寄贈のきっかけをいただき、ウ工ストベス在住で長年の友人たった画家佐藤正明氏、メキシコの竹田鎭三郎氏、報道関係ならびに関係各位に対しましても、深甚なる感謝の意を表します。
平成29年7月
南アルプス市立美術館 館長 向山 富士雄