藤島武二(1867―1943)は薩摩藩士の3男として鹿児島県に生まれました。17歳で上京、川端玉章、山本芳翠らの画塾に学び、三重県津市で中学校教員を3年間務めたのち、1896(明治29)年、黒田清輝の推薦で東京美術学校西洋画科の助教授に就任します。フランス、イタリア留学後は白馬会や文展、帝展を舞台に話題作を発表し続けると同時に、アカデミズムの柱石として多くの後進を育てました。一方で、1913(大正2)年に初めて韓国を訪れて以後、東アジアの事物を意図的に取り上げるようになり、こうした新たな視点が画壇に大きな影響を与えました。皇室からの揮毫依頼、第1回文化勲章受章など、まさにわが国を代表する洋画家として活躍しました。
また、藤島は日本近代洋画の牽引者として近年とみに高い評価を受けています。これは、青年期まで日本画や禅の思想を修養して東洋美術を血肉化し、土台としたこと。ヨーロッパ留学が黒田清輝より20年余りも遅れたため、ポスト印象派やフォーヴィスムの洗礼を受けて帰国しえたこと。また、その雄渾な作風、魅力的な人柄から多くの弟子たちに慕われ、有島生馬、佐伯祐三、小磯良平、猪熊弦一郎など、次世代の画家たちに多大な影響を与えたことなどが挙げられます。
本年は、藤島武二の生誕150年という記念の年に当たります。この展示では、藤島芸術をその優品によって辿るほか、鹿児島時代に学んだ日本画の師の作品をはじめ、洋画を学んだ山本芳翠、黒田清輝、留学先で師と仰いだフェルナン・コルモンらの作品を通じて、藤島作品の形成にもスポットを当てます。
初公開となる作品や資料を含む約160点を紹介し、藤島芸術の裾野の広さを再検証する展覧会です。