久米亮子の世界
生命体らしきものが、透明感のあるアクリルで描かれている。まるで、芯にみなぎるエネルギーがかたちをむすんで花開き、かろやかにふくらんだよう。そのふくらみは、花弁のように空気を内に包み込んで力を充溢させたかと思うと、時に水に放ったインクのように画面から外へと流れ出す。カンヴァスを超えて広がる絵画空間は、身体感覚に訴えてなんとも心地よい。例えるなら、風を受けた薄いベールが肌を撫でる感触であり、ゆったりと流れる水の中にわが身を浸した心持ちである。以前から久米は花弁を連想させるモチーフを画面の一部に登場させることはあったが、時を経て、それは主役となった。色彩の微妙な濃淡に神経を行きわたらせ、隣り合う色と色が生みだす緊張関係が慎重に追求されている。浮遊感漂う画面は、生あるもの皆すべてそうであるように、ゆるやかに動いている。全身を包みこむこの柔らかな感覚に、見る者は母親の胎内に守られているかのような安心感を抱くだろう。
これまで一貫して明るく、美しく、未来への希望を感じさせる作品を追求し続けてきた久米。その根底にあるのはゆるぎない生への肯定だ。「その一瞬、心が幸福感にみたされる、そんな絵を描きたい。」そう語った彼女は、今回もまたしなやかな生命の泉を見せてくれるに違いない。喜田早菜江(清須市はるひ美術館元学芸員)